研究紹介:システムダイナミクス

研究紹介:システムダイナミクス

こんにちは。山田研究室博士3年の横山達也です。
核融合プラズマの崩壊現象を解明することを目的に、機械学習の手法を用いたデータ駆動型アプローチを駆使して研究をしています。
以前のブログ(3月)では,リモート実験の様子をお伝えしました.
今回は少し毛色の違う話として,システムダイナミクスというものを紹介しようと思います.
先端エネルギー専攻の講義「核融合実践演習」の山田研担当分では,システムダイナミクスを用いて核融合炉の運転をシミュレーションする課題に取り組みます.

システムダイナミクスとは,微分方程式で記述されるモデルをソフトウェア上で図に表し,数値シミュレーションを実行する手法です.代表的な表現は「ストック&フロー」と呼ばれ,ある物の存在量(ストック)と流出入(フロー)の組み合わせで,状態の変化を表現します.

具体例で見てみましょう.昨今話題の感染症ですが,その感染の広がり方は微分方程式で数理モデル化できます.
最も基本的なモデルでは,まず人口を3つの状態に分けます.1つ目が,まだ感染していない・これから感染するかもしれない人たち(Susceptible).2つ目が,現在感染している人たち(Infected).この人たちは,一定の確率で感染症を他人にうつすものとします.そして,一定の時間が経過すると回復し,免疫を持った状態になります(Recovered).3つの状態(Susceptible・Infected・Recovered)の頭文字を取って,SIRモデルと呼ばれます.

数量(ここでは人数)の流れは,上図に示すように,SからI,IからRへ.これをソフトウェア上で図に表し,各種パラメータを設定すれば,あとはコンピュータが自動で解いてくれます.実際に解いたのが下の図で,感染者(オレンジの線)が一旦増えるも,その後収束する様子が見て取れます.

余談ですが,「8割おじさん」として有名になった京都大学(当時は北海道大学)の西浦博教授は,このような感染症数理モデルの専門家です.感染症数理モデルのことをもっと知りたい人は,西浦教授の論文などを読んでみてはいかがでしょうか.

互いに関連し合う細かいパラメータをそれぞれ設定していくのは,結構たいへんな作業ですが,図として表現していることで理解しやすく,議論にも繋げやすくなるのが,システムダイナミクスの特徴です.

核融合炉は燃料である水素同位体原子を循環させる複雑なシステムと捉えることができます.その中には不純物や燃えカスが発生する・外部からプラズマを加熱する・熱を取り出して発電するといった,様々な要素があり,これらは互いに関連しています.方程式を記述するためのパラメータが多く,しかも同じパラメータがあちこちの式に何度も出てくる,ということです.これを逐一プログラミングするよりは,システムダイナミクスを使ったほうが,専門的な人でなくとも広く作業と理解を共有できる利点があります.

以上,今回は核融合炉という「システム」をシミュレーションする手法として,システムダイナミクスについて紹介しました.

先端エネルギー工学専攻HPの管理者

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