研究室新設のご挨拶

研究室新設のご挨拶

こんにちは! 専攻教員の田辺です。 5月になりましたね。新年度スタートのあわただしさから少しずつ解放されて、連休を迎えてほっとしているところでしょうか。新入生の皆さんは履修も決まって少しずつ研究開始の準備、先輩学生陣はそんな新入生の様子を見ながら学年が上がったことを実感し、気持ちを新たにしているところかと存じます。

さて、今回の専攻ブログですが、今年度から田辺研として新入生を迎えてスタートしましたので、この場を借りて改めまして着任のご挨拶と研究分野の紹介をさせていただきます。昨年のこの時期は小野・井研究室の助教として活動しておりましたので、M2以上の皆さんには専攻輪講や実習科目などでもお話しする機会がありましたが、今年度から教務副担当科目や専門科目も加わり、皆さんと接する機会が増えていくかと思います。専攻OBでもありますので、かつて自分が専攻学生であった頃のことも思い出しながら、学生目線で何か不便していることはないか、気が付いたことがあれば積極的にサポートしてまいります。よろしくお願いいたします。

田辺研は、研究分野としては核融合・宇宙プラズマ実験を取り扱っています。当研究科はプラズマ系の研究室が非常に多い特色がありますが、この分野の中で当研究室では、「球状トカマク」「磁気リコネクション」「先進プラズマ診断」の3分野に力を入れて研究活動を行っています。
近年核融合エネルギー開発研究では、国際熱核融合実験炉ITERのファーストプラズマ生成まであと数年とせまり、英国オックスフォード近郊のカラム研究所JETの実験では重水素-三重水素(DT)核融合反応を実際に起こす実証・準定常維持実験が進み、熱出力59MJを記録して2022年にプレス発表するなど、今後ITERではQ=熱出力/投入エネルギーの比で表されるQ値を高めた燃焼実験が予定されています。このITER時代を迎えた現代において大学は何をするべきか、球状トカマク分野はポストITERの次の一手として進められている研究分野の1つです。磁場閉じ込め核融合プラズマというと、一般にドーナツ形状のプラズマをイメージしますが、球状トカマク方式はこのプラズマリング全体の大半径を小さく、ドーナツ断面の小半径を大きく取り、全体として球状に近い形状にした磁場配位のことで、β=プラズマ熱圧力/磁気圧力の比(ベータ値)をトカマクに対して非常に大きく取れることが大きな魅力とされています。核融合炉は、核分裂炉と比較すると閉じ込め磁場を作るコイル系のコストが加算されるため、ITER方式からそのまま相似測にもとづいて発電炉を建設すると、原発の2~3倍近いコストがかかってしまうとされています。クリーンエネルギーとはいえ、同じ予算で原発が2~3系統建設できる状態ではたして電力会社は核融合炉を選択してくれるのか、ITERの規模をこえる建設期間10年以上の超大型プロジェクトだけでなく、他の発電方式のように投資/リターンの構図を電力会社側が描きやすいコンパクト炉心シナリオを作ることができれば大きな魅力となるはず、これをモチベーションとして研究活動を行っています。
こちらの研究室では、小野(靖)研・井研・宇佐美研と連携し、この球状トカマクプラズマの効率生成手法として、宇宙プラズマからアイデアを借り、太陽フレア等の爆発的エネルギー開放現象の基盤物理として知られている、「磁気リコネクション」と呼ばれる磁力線のつなぎかわりにともなう粒子加速・加熱現象をプラズマ合体によって能動的に駆動し、プラズマ立ち上げと同時に急速加熱を行うという炉心シナリオに注目して研究を行っています。東大で開発された合体法は現在海外の核融合ベンチャーでも採用が進んでおり、以前2019年9月14日の専攻ブログでも紹介させていただいた「若手研究者国際展開事業」派遣先の英国トカマクエナジー社では精力的な応用実験が進められています。これまでの核融合研究主流のトカマク・ヘリカル方式と比較すると、球状トカマク方式は歴史が若いこともあり「まだ1億度領域に達した装置がない」ことが弱みだったのですが、同社のST40実験では2018年のファーストプラズマ生成後、プラズマ合体で数百万度~2000万度を記録、その後中性粒子ビームによる追加熱が加わり、2022年には荷電交換分光装置による検定を経てついに1億度突破をプレスリリース、球状トカマク実験が核融合業界のマイルストーンの1つである1億度領域に参入したとして大きなニュースとなりました。
トカマク・ヘリカルでもなじみの深い中性粒子ビームによる100ミリ秒時間スケールの外部熱入力と比較して、マイクロ秒時間スケールで瞬時に温度が上昇する合体・リコネクションによる自発的な加熱はどのように理解すればよいのか、これは太陽フレア等をはじめとした宇宙プラズマでも大きな興味の対象であり、球状トカマク合体生成実験は宇宙プラズマの現象を地上で再現できるとして「実験室天文学」としてJAXAのひので衛星研究グループと連携して理学研究にも参加することがあります。宇宙プラズマの自発的なイベントに依存する観測と異なり、実験室では興味のある現象を能動的に引き起こすことができるため、宇宙プラズマと相似な現象を地上で再現できると、宇宙では測定できないパラメータの直接測定や、特定のパラメータを能動的に変えた場合の変化などを体系的に研究することが可能となり、理論・シミュレーション・衛星観測・実験の連携によって新しい知見を見出す学際的なサイエンス研究も活発に行われています。衛星観測の場合、太陽プラズマのような多点その場測定が難しい環境ではリモート測定となることが多く、光学計測の視野の奥行き方向の構造が分解できないことがしばしばありますが、実験室プラズマの場合CTの技術を応用して多方向からの視野の測定によって断層撮像・断層上のパラメータ分布測定なども可能なため、CTあるいはレーザプラズマ診断の応用で、「これまで見えなかったものを見えるようにする」と、その発見は世界最先端の物理解明につながることもしばしばです。プラズマ物理は非常に巨大な学問分野のため習熟には時間がかかりますが、知識が充足する前の段階でもプラズマ診断の特定の分野に特化した時は学生の専門性が教員を上回ることもしばしばあり、学会発表等の経験を経て研究キャリアの早い段階で自信を深めることができます。モデルありきの物理考察と異なり、プラズマの内部の状態を詳細に診断できる強力な計測器が確立されるとデータがすべてを語ってくれるため、従来の予測を裏切る世界初の新発見が開拓されることもしばしばです。
一般に核融合系の研究室では受験生・新入生が最初に抱く不安は、皆が共通の実験装置を使う状況でどうやって独自性を出せばよいのだろうかというところがあると思いますが、我々の研究室では掲載画像のように真空容器の各セクターをはじめから交換可能なように設計するという方式を採用しています。装置軸方向断面図の各セクター取り外しイメージ図のような大きな構造の改造をはじめ、各セクターの子フランジも分割可能となっており、研究テーマと紐づけて各セクターを計測あるいはプラズマ生成・制御・加熱等のプロジェクトごとにわりあて、それぞれの担当セクターの構成は比較的担当者の自由な発想で手を付けて良いというスタイルをとっているため、大型装置と比較すると大学の機動性を活かした自由度の高い研究ができる環境が整っています。最近は、これに加えて装置軸方向の蓋を取り外して真空容器内部に設置するコンポーネントの構成変更工事が進行中で、長期実験停止を伴う全員の合意が必要なこういった大型工事などは、卒業生を送り出して繁忙期がひと段落した新学期スタート直後に実施したりしています。

以上、とても長くなってしまいましたが着任のご挨拶と研究分野の概要・近況紹介をさせていただきました。当研究科の核融合研究教育プログラムの一講座としての側面と、宇宙プラズマの物理を地上で体系的に研究する実験室天文学というスタイル、未発見の新しい現象を発見するための先進プラズマ診断の開発、この3つを柱として田辺研では研究活動を行っています。立ち上げ直後の若い研究室ですのでいろいろと至らないところもあるかもしれませんが、かつて自分が修士1年生の駆け出しだった頃のことなども思い出しながら、研究に加えてこれからは教育活動にも力を入れていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

先端エネルギー工学専攻HPの管理者

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