英国長期派遣 現地レポート

英国長期派遣 現地レポート

こんにちは! 小野靖研究室の田辺です。
今年度から学内の「若手研究者の国際展開事業」の支援により、海外での長期研鑽の機会をいただき、7月より英国オックスフォード南部にあるカラム研究所および核融合ベンチャーであるトカマクエナジーという機関に派遣していただいております。つい先日一時帰国しておりましたが、この記事が公開される頃はまた現地に戻っている頃かと存じます。現地レポート初回ということで、今回は簡単に現地生活の様子等をご紹介いたします。

先端エネルギー工学専攻には、プラズマ・核融合分野の研究室が数多くありますが、カラム研究所は世界三大トカマクの1つとして知られるJETおよび、高瀬・江尻・辻井研(複雑理工)や小野・井研究室で取り組む球状トカマク方式で世界最大の実験MASTを有することでよく知られています。同研究所は博士課程在籍時の留学先として特にお世話になった研究所ですが、2019年現在はMAST-Uへのアップグレードのため、実験再開は来年以降であることから、現在はMAST実験の創設メンバーらが立ち上げた核融合ベンチャーであるトカマクエナジーのST40実験に主として参加しています。

同研究所は、小野靖研究室の研究分野のキーワードでもある「球状トカマク」「プラズマ合体・磁気リコネクション」で共通点のある研究所です。核融合研究で長い歴史を有するトカマクと比べて、1990-2000年代から開拓がすすんだ球状トカマクでは、三大トカマク等の大型装置と比較すると今はまだ1桁温度の低い中型装置の開発段階ですが、トカマクエナジーのST40ではこれを1-10keVオーダーまで拡張し、現在世界最大のMAST・NSTX(米:プリンストン)およびそのアップグレード装置MAST-U・NSTX-Uの設計パラメータを超え、球状トカマクで世界初の1億度規模の高温実験を狙う非常に野心的な研究開発が行われています。
(同研究所の活動については、本ブログ4月4日の小野先生の記事や、同研究所ホームページでも紹介されておりますので、興味がある方はそちらもご覧ください。 https://www.tokamakenergy.co.uk/ 今回はここでは現地生活の様子をお伝えします。)

現地の研究生活は基本的に朝型です。大学での研究は気が付くと夜型になってしまいがちかと思いますが、朝8-9時頃から始まり16-18時頃にかけてほとんどの人が帰宅します。このスタイルは徹底していて、どんなに追い込み実験を行いたい時でも18時頃で終わってしまうため、基本的に研究時間を稼ぎたい時は朝早く来る必要があります。MAST留学時代は8:15に実験ミーティングが始まり、簡単なチェック項目の確認後、朝9時までにMAST装置のある実験建屋の入場禁止となり、実験はお昼も交代制で連続運転、夜18時頃で打ち止めて終了、その後解析というスタイルでした。トカマクエナジーは企業ですが、こちらも同様で持ち込んだ実験機材等の電源立ち上げ・設定変更等は9時頃までに終わらせないと、リモートコントロールできない設定は実験中簡単に変えられなくなるため自然と生活リズムが朝型になります。日本にいる時の感覚では夜18時以降は自分の仕事に集中しやすい時間でしたが、EUでは労働管理が徹底しており、たとえオフィスであっても1人居残りは禁止されているため、事前申請無しで居残りしようとすると、スタッフが帰れなくなってしまって問題であるとして何回か注意をもらいました。トカマクエナジーは5000万ポンドを超える規模の大型寄付金で成立しているベンチャーのため、企業イメージの管理は死活問題の1つであり、居室/オフィスの机まわりの整理整頓まで、ホワイトな環境整備が徹底していました。こうした努力もあってか、同研究所を支えるスタッフ達は陽気でモチベーションも非常に高く、研究所全体にポジティブな雰囲気に満ちています。

トカマクエナジーのST40実験は2018年にファーストプラズマ生成後1年目の試験運転を終え、2年目からセンターソレノイドコイル(7月より運転開始)や中性粒子ビーム入射装置(1号機は夏に完成予定)のインストール等も進めながら徐々に高エネルギー実験環境の整備を進めています。計測系はまだ温度・密度計測系が十分に揃っていませんが、プラズマ加熱研究を進める上では温度計測は必須であり、田辺も本派遣を通じてイオンドップラートモグラフィ計測系の設計・現地建設を担当する形で、現地実務協力を交えながら研究推進の基盤整備を進めています。7月からの派遣開始に伴い、現在試験測定用の分光光学系開発を終えて試験データ取得を始めたところで、次回真空ブレイクに合わせてトモグラフィ計測用に装置ポート改造を経て計測系整備が十分に進んだところで、詳細な加熱研究を開始していく予定です。今回は初回執筆になりますので、概要の紹介でとどめておきますが、次回執筆担当がまわってくる頃には滞在期間の中頃に入ってくるかと思いますので、より詳細な現場の様子をお伝えできればと存じます。

※ブログへのアップ用写真は研究現場の様子と現地パブでエール等満喫している時の写真等を選びました。研究所生活は帰り時間が厳格に規定されているため、「今進めている仕事がひと段落するまでやり切ってから帰宅」できるようにしようとすると、「○○は何時までに終えて、***を終えて居室に戻ると17:40で…」と時間刻みでの1日の時間の使い方を強く意識させられます。英語づけの生活の中で、頭の中にある時間刻みのやることリストを、終わり時間のカウントダウンまで意識して次々と進めていく過程は、一週間続けるとかなりの消耗をともない週末にはへとへとになりますが、その分ビールがとてもおいしく感じます。サッカーでも見ながら駆け付け一杯、料理が出てきてもう一杯、お酒が進んでもう一杯と個人で楽しむも良し、実験のない日は皆で繰り出すも良し、そんな日常の写真を載せてみました。

最後になりましたが、今回このような研鑽の機会をいただきありがとうございます。現地へ他の学生さんを送り込みやすい留学受け入れ基盤整備と、自身の研究の引き出しを広げて帰国後に還元することでいろいろ恩返しできればと存じますが、まずは現地でしっかり研鑽してまいります。また時折現地状況をレポートさせていただきます。

先端エネルギー工学専攻HPの管理者

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